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50年排出ゼロ、官民一体で 温暖化対策法改正案成立へ:日本経済新聞(5/26)

各地で太陽光発電など再生可能エネルギーの導入が進んでいる

国、自治体、企業が取り組むべき気候変動対策を定めた地球温暖化対策推進法改正案が26日、参院本会議で可決、成立する。「2050年までの脱炭素社会の実現」を明記し、50年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロにする政府の目標の法的な裏付けとなる。再生可能エネルギーの導入の拡大策も盛り込んだ。

改正は5年ぶりで、22年4月の施行をめざす。20年10月に菅義偉首相が50年までの排出実質ゼロを宣言したことを踏まえ、条文に基本理念を新たに設けて50年ゼロの方針を明記した。政権が代わっても将来にわたる政策の継続を国内外に約束する。

企業が安心して脱炭素社会に向けた投資をできるようにする効果を期待している。気候変動対策に臨む日本の本気度を各国に示す狙いもある。

政府は21年4月、中期目標として30年度の温暖化ガス排出を13年度比46%減らす目標を打ちだした。達成に欠かせない再生エネの導入拡大に向け、改正案で「促進区域」の仕組みを設け、事業者が再生エネに取り組みやすいようにする。

再生エネの発電所をつくっても安全で、経済性を見込める地域を自治体が絞り込み、近隣住民などにも事前了解を得た上で区域を設定する。

区域内での事業を自治体が認定すれば、事業者は自然公園法や農地法といった発電所設置に必要な手続きを自治体を窓口にしてワンストップで済ませられる。環境影響評価(環境アセスメント)の手続きの一部も簡略化できる。事業者の負担を軽くして再生エネ導入の迅速化につなげる。

地域住民にとっても、あらかじめ風力発電の風車やメガソーラーなどが建設されるエリアを知っていれば安心感が増す。

再生エネ施設をめぐっては、騒音や景観などの懸念から地域住民が建設に反対し、事業開始が遅れたり事業自体を断念したりする事例が各地で起きている。促進区域の仕組みによって、トラブルが起こるリスクを下げ、企業などが再生エネ事業を円滑に進められるようにする。

都道府県には再生エネの導入目標の開示を義務付け、実行計画を立てて導入を進めてもらう。市町村にも目標開示の努力義務を課す。

企業の排出量についても事業所単位で公表し、脱炭素の努力を「見える化」する。世界で脱炭素の流れが強まる中、排出量はESG(環境・社会・企業統治)の観点で投融資先を選ぶ目安になる。脱炭素の取り組みは資金調達に影響し、企業の経営課題の一つとなっている。

蓄電池や水素活用 技術革新にも期待

改正案の特徴の一つが、温暖化ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」について、基本理念と題した条文で「2050年までの実現」を明示したことだ。年限の法律への明記は国内では初めてで、外国でも英国などに限られ、例が少ない。
産業革命以降、石炭や石油の利用が進み、自然が吸収する以上の温暖化ガスが排出されるようになった。気温上昇や異常気象の影響が出ている。
現在、日本を含めた各国の取り組みの基礎となっているのは、15年にパリで開いた第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で合意した「パリ協定」だ。世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2度未満に抑えることを目指し、1.5度以下にする努力目標も掲げている。

日本が30年度の目標とした46%減は、パリ協定の目標達成の前提となる数字だ。再生可能エネルギーの導入拡大や、省エネなどを緻密に計算して積み上げた数字ではない。気候変動の影響を抑えるための科学的な数字に基づいた削減目標を決め「バックキャスト」と呼ぶ手法で策定した。
経済産業省側は40%程度まで積み上げできると首相に報告していた。その意味で日本の46%目標はバックキャストと積み上げの「中間」とも言える。11月に英国で開くCOP26で目標の根拠を示さないといけない。政府は近くまとめるエネルギー基本計画や地球温暖化対策計画(温対計画)に具体策を盛り込む。
50年のカーボンゼロは時間的な余裕がある。まず再生エネの大幅な増加が想定される。国は40年までに洋上風力の発電能力を原子力発電所45基分に上る4500万キロワットにまで増やす。
技術革新も期待できる。開発中の「ペロブスカイト型」と呼ぶ太陽電池は低コストで薄く作れる。太陽電池を取りつけにくかった建物の壁面を覆うこともでき、設置面積を飛躍的に広げられる。蓄電池の性能向上で1回の充電で1000キロメートル超の走行を可能とする電気自動車(EV)なども登場する。水素が燃料の航空機も実用化が見込まれる。
一方で30年は10年以内の近い目標のため技術革新は織り込みにくい。規制やルールを見直し、再生エネのさらなる導入を促すといった対策が必要になる。

国の30年時点の再生エネの導入目標は現状、約2割だ。太陽光発電の拡大によって20年時点でほぼ達成しているものの、4割を超える英独からは見劣りする。
その足かせの一つが送配電網だ。再生エネに関する政府の会合では、中小の事業者が送配電網につなぐ際に大手電力から高額の費用を求められるケースが相次いでいると報告された。こうした背景もあり、経産省は地域間送電網の容量を2倍にする計画案をまとめた。ただ、事業費は数兆円になる可能性もあり、どう賄っていくかも課題となる。
発電時にCO2を出さない原子力発電の活用も、脱炭素を進めながら一定規模の電力を使うには重要視される。政府は原子力規制委員会の安全性審査に合格した原発の再稼働を進めていく。一方で発電時の排出量の多い石炭火力は、古くて効率の低い発電所は廃止するか、設備を更新する。
身近なところでは、EVや燃料電池自動車(FCV)の普及もカギを握る。日本勢は開発では先行してきたが、国内普及率は1%ほどにとどまる。欧米では普及が進み、ノルウェーでは20年の新車販売の過半がEVだった。
欧米は脱炭素の開発投資に積極的だ。欧州連合(EU)は10年間で官民合計で1兆ユーロ(約130兆円)の目標を掲げた。日本は2兆円の基金を立ち上げるが金額では物足りない。

欧州ではEVの普及が進む

政府の支援で十分でなければ、世界で約3000兆円に上るというESG投資や、国内企業が持つ約240兆円の現預金などを活用していくことも欠かせない。投資を呼び込む魅力的な脱炭素産業を育てていくことが重要になる。
炭素排出に価格を付けるカーボンプライシングの導入も有効な手段だ。主な手法としては、個別企業の排出上限を決め、進展する企業と不足する企業が排出枠を売り買いする排出量取引と、排出量に応じて課税する炭素税の2つがある。
すでに本格的に導入した欧州では温暖化ガスの削減で効果が出ている。欧州委員会によると、EU域内の排出量取引制度の対象となるすべての事業者の温暖化ガス排出量が、19年は18年と比較して8.7%減った。国内の産業界には異論があるが、採用は避けて通れない。「温暖化ガス削減と経済成長の好循環」(首相)の実現には政策面での誘導が必要になる。

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