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企業や地域の再生エネ導入「見える化」改正温対法成立:日本経済新聞(5/26)

横浜市は横浜港で風力発電に取り組んでいる

改正地球温暖化対策推進法が26日の参院本会議で成立した。改正法は自治体や企業の脱炭素に向けた取り組み状況を「見える化」する仕組みに重点を置いている。再生可能エネルギーの導入や排出削減の努力を比較しやすくし、自治体や企業の競争を加速する狙いがある。環境意識を全体として高め、脱炭素を進める。

どこで再生エネ調達できるか見えやすく

改正温対法は2022年4月の施行をめざしている。都道府県や政令市などに対して、再生エネの導入目標を設定し開示することを義務づける。市町村には再生エネ導入目標の開示の努力義務を課す。

現在は、自治体は温暖化対策の実行計画を策定し公表している。この計画には再生エネの利用促進や事業者の排出抑制などの施策が盛り込まれているが、数値目標までは求められていなかった。今後は計画で明示する施策に目標を記載することで、取り組みがより確実に進むようにする。

2050年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする目標を掲げる自治体は足元で380を超えている。ただ、現状では「宣言ベース」にとどまるところも多く、これから具体策を検討する自治体が大半だ。

米アップルは自社が再生エネの電気を使うだけでなく、スマートフォン「iPhone」の部品供給企業にも再生エネの利用を求めている。自治体ごとにどれだけ再生エネの導入に積極化なのかが分かれば、企業が工場やオフィスをどこに設ければ再生エネが調達しやすいかも見えやすくなる。

企業の排出データは事業所ごとにわかりやすく

企業が排出する温暖化ガスの量を開示する仕組みも充実させる。

今は二酸化炭素(CO2)を年間3000トン以上排出する企業が温対法に基づいて排出量を国に報告している。そのデータを国がネット上で公表している。

企業は事業所ごとの排出量も国に報告しているが、事業所ごとの細かなデータをみるには情報公開の手続きが必要で、手数料もかかった。改正温対法ではこうしたものが不要になり、ネット上で自由に閲覧できるようになる。

自治体や金融機関など、誰でも企業の排出量を事業所ごとに確認できるようになる。発電所や製鉄所、工場などの排出量を公表することで、同じ企業の中でも部署ごと、工場ごとでの競争を喚起する効果が想定される。自治体にとっても事業所ごとの排出量を把握できれば、自治体の区域内で排出量を減らすために必要な取り組みを検討しやすくなる。

企業の排出量や削減に向けた努力は、投資家や金融機関がESG(環境・社会・企業統治)の観点で投融資先を選ぶときの目安になってきている。

法改正に合わせて排出量の報告や開示の方法も改める。報告に電子システムを使うことで企業の報告や国の集計・開示にかかる手間を省く。報告から開示までの期間は現行では2年かかっていたが、1年未満に短縮する。

電源構成も見直し、再生エネを30年度に倍増

政府は2030年度の実現をめざす新たな電源構成を夏に示す見通しだ。発電部門の温暖化ガス排出は国全体の4割を占める。排出を13年度比46%減らす目標に向けて、火力に依存する現状から再生エネに大きくシフトする必要がある。

18年に決めた30年度の電源構成は火力が56%、再生エネが22~24%、原子力が20~22%。ただ、19年度の実績は火力が76%、再生エネは18%、再稼働の遅れる原子力は6%にとどまる。経済産業省を中心に検討中の30年度の新たな構成は火力の比率を4割まで下げる。再生エネを3割台後半と現状の2倍に高め、原子力は2割を維持する。新たな脱炭素エネルギーとして期待される水素・アンモニアで1%以上を賄う。

30年度までの残り期間を考えると上積みしやすいのは工事などが比較的短期間で済む太陽光だ。国土が狭く山がちの日本で大量に導入するには、まとまった用地を確保できる促進区域の設定のほか公共施設など幅広い建築物への設置が必要になる

各国が対策強化、経済との両立狙う

米国でバイデン政権が誕生したことで世界各国の脱炭素の取り組みが活発になってきている。米国はトランプ前政権で2017年にパリ協定からの離脱を表明したが、バイデン政権により21年2月に復帰した。バイデン氏の主導で米国はオンライン形式で気候変動サミットを4月に開いた。各国首脳が温暖化ガスの排出削減目標を相次いで打ち出した。

サミットはオンライン形式で40の国・地域の代表が出席。主催した米国は30年の温暖化ガス排出量を05年に比べて50~52%減らす目標を打ち出した。「25年に05年比26~28%削減」としたオバマ政権下での目標から大きく引き上げた。
「持続可能な未来に向けて行動すべきだ」。バイデン大統領はサミットの演説でこう呼びかけ、各国の首脳に温暖化ガスの排出削減に向けた協力と行動を求めた。

最大排出国の中国は30年までに削減に転じさせる方針だ。習近平(シー・ジンピン)国家主席はサミットの演説で、世界の約半分を占める中国の石炭消費量を「26~30年にかけて徐々に減らしていく」と述べた。
英国のジョンソン政権はサミットの直前に目標を引き上げた。35年に1990年比78%減をめざす。

日米英と欧州連合(EU)、カナダは50年まで、中国は60年までに温暖化ガスの排出量の実質ゼロを目指すことを決めている。各国は中間時点にあたる30年までの新たな目標を国際連合に提出する。11月に英国で開く第26回国連COP26ではパリ協定の達成に向けて話し合う。

各国で脱炭素の取り組みが進む背景には、温暖化対策と経済成長を一体にとらえる考え方がある。サミットの演説で英国のジョンソン首相は「同時に達成できる」と強調。温暖化対策への投資や雇用創出が新型コロナウイルス感染症のまん延で落ち込んだ経済の再生につながると訴えた。

20年10月の所信表明演説で50年の実質ゼロを訴えた菅義偉首相も「脱炭素を企業の新たな投資先にしたい」との思いを持つ。

例えば発電時の温暖化ガス排出量の大きい電力業界。国内最大の発電事業者、JERAは愛知県碧南市の石炭火力発電所で、石炭の代わりにアンモニアを20%混ぜる実証実験を24年度に始められるよう準備を進めている。40年代には専焼を目指す。アンモニアは発電時に二酸化炭素(CO2)を出さない。電力需要が伸びるものの石炭火力の多いアジアに技術輸出することも視野に入れる。

ほかの産業でも、電気自動車の生産増による雇用創出効果や、製鉄や航空機で水素を使うことで新たなビジネスが生まれる可能性がある。欧州委員会はこのほど、どのような事業が温暖化防止に貢献するかを示す基準「EUタクソノミー」を公表した。22年からマネーの流れを環境分野に向かわせる仕組みを導入する。
脱炭素は成長の柱となり、ESGなどマネーを呼び込む役割も高まる。気候変動への対策を世界で主導できるかどうかは、各国の産業や成長戦略の成否をも左右する。

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