ニュース記事

ソニー、安価な再エネ電力 あれこれ持たない自家発電:日本経済新聞(6/15)

ソニーの工場へ送電する太陽光発電パネルを設置した牛舎(出所:デジタルグリッド)
日経クロステック

太陽光発電をはじめとした再生可能エネルギー由来100%の電力には、「電気料金が高くつく」「供給が不安定」というイメージがつきものだ。しかし、安価な再エネ電力を確保できる手法も確立されつつある。その1つが「自己託送」だ。

自己託送とは、遠隔地で自家発電した電力を、電力会社の送配電網を使って自社のオフィスや工場へ送電して消費するもの。発電者と電力の消費者が同一企業なので、売買に電力会社が介在せず、安価かつ安定して再エネ由来100%の電力を確保できる。

ソニーは2021年4月、独自の自己託送を開始した。自己託送では通常、自社の敷地内に太陽光発電パネルなどの自社保有の発電設備を設置するのが一般的。しかし今回の同社のケースは、第三者の所有する「牛舎」の屋根に別の企業が設置した太陽光パネルで発電した電力を使うのが特徴だ。

牛舎の屋根に設置した太陽光発電パネル(出所:FD)

再エネ賦課金が上乗せされない

通常、企業が再エネ電力を購入する際には、どうしても電力料金が高くついてしまう。太陽光発電の電力を利用する場合、第三者がメガソーラーなどで発電した電力を電力会社が固定価格で買い取って販売するが、その際に「再生可能エネルギー発電促進賦課金」(21年6月時点では原則として1キロワット時当たり3.36円)などが上乗せされるからだ。

しかし、自己託送なら、この再エネ賦課金などのプレミア料金が上乗せされない。そもそも自社用の設備なので、発電した電力は全て自社で消費できる。企業間の再エネ電力争奪戦に巻き込まれず、安定して再エネ電力を確保できる。これらのメリットに目をつけ、自己託送を採用する企業が増え始めている。

ソニーは20年2月に静岡県内で既に自己託送を実現している。ソニー・ミュージックソリューションズJARED大井川センター(静岡県焼津市)の物流倉庫の屋上に約1.7メガワットの太陽光発電パネルを設置した。

余剰電力を中部電力の送配電網を介して、同社の製造工場である静岡プロダクションセンター(静岡県吉田町)へ供給している。自己託送で賄っている電力は約900メガワット時。静岡プロダクションセンター全体で消費する電力の4%に当たる。

パネルの場所も所有も社外

上記のケースでは、太陽光発電パネルはソニーの敷地内に設置している。しかし、自己託送「第2弾」に当たる冒頭のケースでは、太陽光発電パネル(約400kW)の設置場所は愛知県東海市にある牛舎の屋根だ。

牛舎屋根上の太陽光発電パネルの所有者は、太陽光発電パネルの設計・施工や各種電気設備工事を手掛けるFD(愛知県刈谷市)。牛舎の屋根上を所有者から賃借しているのもFDだ。

自己託送のイメージ(取材を基に日経ものづくりが作成)

太陽光発電パネルを所有するFDは、ソニーとエネルギーサービス契約を締結している。つまり、自己託送の当事者であるソニーが、業務の一部をFDに委託した形だ。

発電した電力は中部電力の送配電網を通って、牛舎から約30キロメートル離れたソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズの幸田サイト(愛知県幸田町)に送電、消費されている。

まだ運用を開始したばかりだが「電力料金は数パーセント下げられた」(ソニー、数値は非開示)。ソニーはこの取り組みによって二酸化炭素(CO2)排出量を年間約192トン削減できると試算している。

この手法を使えば、太陽光発電パネルを設置する広大な敷地を自社で確保する必要がない。太陽光発電パネルを購入する必要もないので、導入時のイニシャルコストを下げられる。ソニーの今回の取り組みは、再エネ電力活用のハードルを下げ、その普及に拍車をかける可能性を秘める。

精度の高い発電量予測が必要

ただし、自己託送の実現には課題もある。最大の壁が「発電量の予測」だ。電力会社の送配電網を介して自己託送する際、発電量と消費電力量との「同時同量」を電力会社から求められる。

30分単位で発電量の予測値(計画値)と、実際に消費する電力とを一致させなければならない。電線には許容電流値があり、自己託送の電流が流れる場合は、それに合わせて電力会社が送電量を調整しなければならないからだ。

消費電力量は電力を利用する企業がコントロールできるが、太陽光発電パネルによる発電量は日射量に大きく左右されるので予測が難しい。

にもかかわらず発電量の予測が、電力会社に提出した計画値から外れると、「インバランス」と呼ばれるペナルティーが課され、電力料金が高くなってしまう。このペナルティーのために電力会社から再エネ電力を購入するよりも高い料金を支払うことになっては、自己託送する意味がない。

そこで精度の高い発電量の予測が必要になるわけだ。今回のケースでは、電力の直接売買プラットフォームを手掛けるデジタルグリッド(東京・千代田)が発電量の予測を担当している。

デジタルグリッドは発電量の予測に人工知能(AI)を活用。同社社長の豊田祐介氏は「晴天時ならほぼ100%の精度で予測できる。曇天時などは予測が難しくなるが、それでもペナルティーの支払いを無視できるレベルに抑えられている」と話す。

予測に必要なデータは過去1年間の消費電力量と1年間の電気代明細書、リアルタイムの発電量だ。リアルタイムの発電量は、太陽光発電パネルなどを設置した自家発電所のメーターにデジタルグリッドコントローラー(DGC)を取り付けて計測する。

デジタルグリッドは、これらのデータと併せて温度や湿度、気圧などの気象データを基にAIの学習モデルを作成し、精度の高い発電量の予測を実現している。

デジタルグリッドが予測した発電量と実際の発電量を比較。これで誤差率は約1.8%。晴天時はほぼ予測通りだが、曇天時は誤差が相対的に大きくなる傾向があるという。なお、このグラフは今回取り上げたソニーの自己託送とは別プロジェクトのサンプル(出所:デジタルグリッド)

再エネ活用は経済面でも有効

自己託送のプロジェクトを経験して、ソニーは確かな手応えを感じているようだ。ソニーグループHQ総務部EHSグループシニアマネジャーの井上哲氏は「再エネ活用の観点からも、経済的な面からも自己託送が有効だと確認できた。今後も調査を続け、長期的な観点からも成立すると判明すれば、自己託送をさらに展開していきたい」と話す。

同社は1990年代から環境活動方針と行動計画を掲げ、環境問題に取り組んでいる。18年9月には、使用電力を全て再エネで賄うことを目指す国際的な企業連合「RE100」に加盟し、40年までに100%再エネ電力での稼働を目指すと公表した。

加えて、20年9月に策定した環境中期目標「グリーンマネジメント2025」では、同社の事業所における温暖化ガス排出量を20年比で5%削減し、再エネ電力の使用率を15%以上に引き上げるとの目標も掲げている。

これらの目標を実現するため同社は、再エネ調達の手法として、「I-REC」などの再エネ電力証書の利用や再エネ電力の購入と並んで、自社内での太陽光発電設備の導入を挙げている。今回の自己託送の採用も、こうした取り組みの一環だ。

敷地外での自家発電による自己託送を提案したFD社長の鈴木政司氏は、次のように話す。

「発電する場所は倉庫の屋根でも空き地でも、どこでもいい。太陽光発電パネルを所有しているのが、電力を利用する企業でなくても構わない。太陽光発電パネルを設置する敷地の余裕がなかったり、再エネ賦課金の負担が大きいと感じていたりする企業にとって(今回のような)自己託送は有効だ」

敷地や設備を所有しない自家発電という今回の取り組み。自己託送による再エネ活用の可能性を広げたといえる。

一覧ページへ戻る