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脱炭素への道、再エネ100%の街づくり 大阪・吹田ルポ:日本経済新聞(7/26)

世界的な脱炭素時代の到来が、街づくりのあり方に変化をもたらしている。政府は農村や離島、都市など100以上の先行地域を選び補助金を出すなどして、脱炭素の街「ゼロカーボンシティ」の実現を後押しする。大阪府吹田市ではパナソニック関西電力など民間企業が主導して、脱炭素タウンの開発に着手した。再生可能エネルギーによる電力供給を核に、幅広い世代が同居する街づくりを目指している。

国内初、実質再エネ100%タウン

大阪北部吹田市の万博記念公園から南へ約3キロメートル。JR岸辺駅近くののどかな住宅街の端で、建設中の集合住宅群が視界に入る。2万3000平方メートルの広大な敷地は、もともとはパナソニックの工場として使われていた。

隣接する府道・大阪高槻京都線はかねて、周辺住民から「産業道路」と呼ばれている。近隣に住むタクシー運転手の男性(49)は「10年前は大型トラックが行き交っており、歩道に人影は少なかった」と話す。

だが周辺では、2019年に国立循環器病研究センターが移転してくるなど自治体主導で「健康医療都市」を目指した開発が進み、「ここ数年で住民にとって住みやすい街になってきた」(吹田市の担当者)。変化し続ける街がまもなく進化を遂げる。

22年春に完成するのは、パナソニックや関西電力など17団体が主導する「Suita サスティナブル・スマートタウン」(吹田SST)だ。居住区だけでなく複合商業施設、福祉施設にいたるタウン全体の電力を全量実質再エネでまかなう国内で初めての「脱炭素タウン」だ。

全362戸の居住区では、学生からファミリー世帯、高齢者など多様な世代が居住することを想定した分譲マンションや賃貸マンションを設ける。敷地内には日常生活に便利な複合商業施設だけでなく、学習塾や介護施設、保育所といったあらゆる世代の生活を支える施設を備える。

省エネルギー家電や設備をつくってきたパナソニックは、日常生活から出る電力や温暖化ガスといったエネルギーを削減するための事業を、地域全体に移した。これまでも神奈川県藤沢市や横浜市の自社の工場跡地を使ってスマートシティーを実現してきた。だが、街全体の電力全てを実質再エネだけで賄う「脱炭素」の試みは初めてだ。

屋上に太陽光の「ZEH」

吹田SST内の分譲マンションは、エネルギー収支をゼロにするZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)対応になる。すべての施設の屋上に太陽光パネルを網羅し自家発電する。エネルギー効率の高い空調設備や断熱材を完備して消費エネルギーを減らす。

自家発電の不足分は、関電が非化石証書を使った実質再エネ電力や、固定価格買い取り制度(FIT)の期間終了後の「卒FIT電力」を調達して街区に供給する。

各施設には蓄電池も設置し、ピーク時の電力使用量を自動的に抑える「デマンドコントローラー」で、街区全体のエネルギー消費を抑える。電力消費の効率的な運用を自動化したのも特徴だ。

吹田SSTでは電気料金も安く抑える。複数の段階を経ない受電のため、変換や送電によるロスをなくせる。敷地内に変電設備を設置することで電力コストを抑えられる。非化石証書購入による価格上昇分を相殺し、再エネを使わないときと同程度の電気料金の水準になる。

災害時の電力のレジリエンス(耐久)機能も高める。自然災害などで送電線にトラブルが発生すれば、街の外からの電力供給は途絶える。18年6月に発生した大阪北部地震では、吹田市も停電などの被害を受けた。吹田SSTは街中で蓄電機能を備えることで、非常時にマンションの共用部で約3日間、電気を自足できる。公園では非常用コンセントの開放も検討する。

電気自動車(EV)のカーシェアリングサービスも導入する。街区内にはEVの充電設備を設置。非常時には周辺地域へEVから給電する。

パナソニックの坂本道弘総括は「子どもから高齢者まで住む人の暮らしが継続するように、脱炭素に貢献しながら都市の持続可能性を探りたい」と意気込む。

持続可能性の担保が課題

気候変動問題などに精通する東京大学の高村ゆかり教授は「一人ひとりが二酸化炭素(CO2)排出量をゼロにしたいと思っても、実現できるかどうかは、生活の土台となる地域の社会基盤に依存している」と指摘する。その上で「民間企業が生活基盤の脱炭素化に取り組むことで、住民の努力が報われる」と語る。

吹田SSTは街区全体の自家発電の割合がまだ少なく、非化石証書を得た電力の供給が大半を占め、脱炭素としては途上だ。持続可能性を担保した電力の比率をいかに増やせるかが課題だ。

事業収支バランスが重要
民間がビジネスとして脱炭素を目指した街づくりを成功させるには、事業収支のバランスも不可欠だ。断熱性の高い設計や効率の高い省エネ機器の導入で建設コストがかさむ。マンションの販売価格が相場より高くなり入居者が集まらなければ、事業収支は厳しくなりかねない。街の新陳代謝には、入居者にとっての魅力づくりも欠かせない。
その点、吹田SSTのコンセプトは様々な世代が共存する街づくりを目指し、入居者へのニーズに応えようとしている。
吹田市は2021年2月に「ゼロカーボンシティ」を表明し、温暖化ガスの排出量を28年度までに13年度比50%減、50年までにゼロの目標を掲げた。吹田SSTを生かした市民向け環境教育や両者が組んだPR活動を検討する。東京大学の高村ゆかり教授は「民間が脱炭素を目指した街づくりを成功させるためには、自治体や地域と連携する必要がある」と指摘する。
本格的な脱炭素時代の到来で、全国各地で脱炭素タウンを作る動きは加速している。ただ自治体主導がほとんどで、中には掛け声だけで民間事業者が集まらず実態を伴わないところもある。国が掲げる50年カーボンニュートラルの実現には、街や地区全体が変貌を遂げることが重要だ。
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