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天然ガス高騰、政治家は脱炭素策の推進を:日本経済新聞(9/24)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM229040S1A920C2000000

どのような時であろうとエネルギー価格の過度の上昇は望ましいものではない。しかし、世界の民主主義国家の指導者たちが脱炭素化に向けてコンセンサス作りをしようとしているこの時期の天然ガス価格急騰は特に折が悪い。

イスラエル沖の天然ガス掘削施設。価格の高騰が増産を誘発しかねない=ロイター

天然ガスの生産障害、地政学的問題、再生可能エネルギーの発電を妨げる天候という3つの悪条件が完璧にそろったうえ、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的感染拡大)による景気後退から主要経済の多くが回復に向かい、需要が予想を大きく超えて増加した。その結果、天然ガスの価格が急上昇し、各国の政治家が対応を迫られている。

スペインとイタリアの政府は、エネルギー料金の値上げを抑えるために介入し、フランスでは低所得世帯への給付金を増やしている。英国では、卸売価格が高騰する中で固定価格でガスを提供している小規模なエネルギー供給業者の倒産が相次ぎ、政治家はその影響を抑えようと躍起になっている。

しかし、より大きな政治的な課題が深いところにある。それは、気候変動に取り組むための挑戦的な政策について、有権者を説得して支持を取り付けることだ。有権者が電力・ガス料金の急騰に苦しんでいる時にあえて化石エネルギーの価格を引き上げるという施策も避けて通ることはできない。この状況で、政治家が有権者に向かってさらなる値上げが必要だと言うには相当な勇気が要る。フランスで2018年に始まった反政権運動「黄色いベスト」や各国での気候変動政策への抗議運動は、政治家の記憶に残っている。

今の天然ガス価格の高騰が一時的なものか、世界的なエネルギー生産の構造変化を反映した長期的なトレンドなのかは見極めがたい。このことが、理知的な政策立案をより困難にしている。

消費者が感じる痛みが、気候変動対策を政治的に難しくしているとしても、その必要性が薄れているわけではない。第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)が数週間後に迫る中、世界の指導者は、気候変動への長期的な対応が不可欠であることを忘れることなく、エネルギー価格急騰のショックに対応しなければならない。

価格による調整機能は不可欠

そのためにはまず、前提として、価格メカニズムは、たとえ受け入れがたいとしても、必要不可欠な役割を果たしていると認識する必要がある。70年代のオイルショックの教訓の1つは、価格の上昇は、エネルギー効率を高めようとする需要側の努力を加速するということだ。天然ガス価格の急騰で電気料金が値上がりすれば、再生可能エネルギー投資の収益も高まる。価格の上昇が構造的で、長期的トレンドである場合は特にそうだ。

価格の上昇が天然ガスの増産につながる可能性はある。しかし、いずれにせよ、石炭など二酸化炭素(CO2)を大量に排出する化石燃料から脱却する過程で、一部の国が中間的な措置としてCO2排出の少ない天然ガスの増産を進める可能性がある。この天然ガスシフトが最近の価格変動の一因でもある。アジアにおけるガス需要の高まりが、液化天然ガスの取引を通して、欧州での供給減につながっている。しかし歴史的に見れば、燃料の不足は、概してそのエネルギー資源への依存度を高めるのではなく、減らす方向に作用した。

いずれは、市場が調整機能を発揮する。現在の価格変動は、その突発性と規模の大きさゆえに政治的なリスクが大きい。国民との一体感を保つためには、政府は本当に助けを必要とする人々のことを考えており、援助するという姿勢を示す必要がある。補助金や規制措置を通じた介入が必要になるかも知れない。

しかし、価格上昇が有益な変化を促進することを妨げることなく、苦しむ消費者に経済的援助を与えることは可能だ。定額料金による供給や家庭によるエネルギー消費の(全てではなく)適切な量についてコストの増加分を補償すれば、市場の促進効果を維持しつつ、消費者の負担を軽減し、政治的な利益まで確保することもできるかもしれない。

家計に不安を抱える市民をないがしろにすることなく、地球温暖化対策を推進することは難しさを増している。しかし責任ある指導者にこれ以外の道はない。

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