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EVのリアル、ノルウェーは街ごと スタンドから家まで:日本経済新聞(10/6)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR210AK0R20C21A9000000/

 

北欧ノルウェーで政府や企業が交通インフラを「脱炭素仕様」に塗り替えようとしている。給油所は電気自動車(EV)の急速充電設備に置き換わり始め、タクシーやトラック、フェリーに至るまで電動化が進む。EVを生活のメインとして普及させるためには、住宅も含めて街のインフラをまるごと脱炭素社会に合わせる必要がある。最先端のノルウェーで、EV仕様に変貌しつつある街の未来を探った。

首都オスロから西に約80キロメートル、5月に開業したガソリンスタンドとコンビニエンスストアの複合店「サークルKコングスベルポーテン店」を訪ねた。日本でも親しまれた、円の中にKのロゴが見える。

客がミニバンを止めようとしたが、けげんな顔で出て行った。並んでいたのは全てEV用の急速充電設備だったからだ。6基の充電器が計12台に充電できるようになっている。1基の出力は300キロワット。急速充電でも22キロワットや50キロワットがまだ多いなか、乗用車向けでは世界最速クラスだ。

ガソリンは店の奥

韓国・現代自動車「アイオニック5」を充電していたイェンスさんに聞くと「80%までなら18分」と教えてくれた。18分で約350キロメートル走れる。敷地内には子供が遊べる遊具や50席の飲食スペースがある。店員のビヨリグさんは「『ガソリンはどこにいった』と聞かれることもある」と話す。ガソリンも給油できるが敷地の奥で目立たない。

サークルKコングルベルポーテンに並ぶ18口の急速充電器のうち12口は300キロワットと非常に速い

サークルKはノルウェーで450カ所のガソリンスタンドを運営し、そのうち約90カ所に600台分の急速充電設備を備える。主要な幹線道路には設置を完了した。サークルKのeモビリティー事業のトップ、ホーコン・スティクスレッドさんは充電ステーションについて「成長の速度は速い」と手応えを感じる。

コングスベル店の給油と充電の売上高の比率は7対3だが、ノルウェーではEVシフトで2年前から燃料販売量は毎年数%ずつ減り始めた。スティクスレッドさんは「来るべきエネルギー構成の変化に備える必要がある」と語る。

ノルウェーEV協会のスべイヌン・クオーレ上席顧問は「EVがメインの車として日常から休暇までカバーする過程で、インフラの充実がカギになる」と話す。ノルウェー政府は2017年に主要幹線道路の50キロメートルごとに少なくとも2口の急速充電器を設置するプログラムを開始し、民間企業のために基金を設けた。

欧州代替燃料オブザーバトリー(EAFO)によると、最新のノルウェーの高速道路100キロメートルあたりの公共急速充電器(22キロワット以上)の口数は1200以上と5年前の約5倍。欧州連合(EU)全体の26、ドイツの70をはるかに上回る。スべイヌンさん自身も「電池残量10%を切らないと不安に感じない」と話す。

スマホで充電操作

集合住宅も変わり始めた。4年前の取材ではオスロ市役所のEV推進担当、ストゥア・ポトビックさんは「人口の7割が住む集合住宅が課題」と話していた。再会したポトビックさんと市郊外にある集合住宅「ロベコレン・ボレスラグ」を訪れた。

集合住宅「ロベコレン・ボレスラグ」のガレージ(写真中央)には屋上に太陽光パネルを敷いた(オスロ)

ガレージでは屋上に太陽光パネルがあり、中には蓄電池が置かれていた。住人理事会のキェティル・ヘトランド会長は「スマート充電システムを導入し充電時間の管理が簡単になった」と話す。

現在246戸の住人のうち約4分の1がEVを保有する。19年に保有者がガレージで充電器を設置できるようにした。だが、充電の際に容量の問題で15台までしか同時に充電できず、誰がいつ充電するかを決める必要があった。

そこで21年5月にスマート充電システムを導入した。何%まで充電したいのかや車を使う時間などをスマホのアプリで入力するとシステムが最適な配分をするので、住人はプラグを差すだけでいい。

太陽光パネルで発電した電気を蓄電池にためて売電もすることで、電気代を下げられる。負荷を分散すれば電力網への高額な投資も不要だ。ヘトランドさんは「EVに乗り換える住人が増えても対応できるし、住宅の資産価値も上がる」と胸をはる。

蓄電池も設置し電力料金を抑える

今後、ロベコレンのような事例が増えるのは確実だ。ノルウェー政府は20年12月、集合住宅の住人が共用部分の駐車場に充電設備がほしいと要求した場合、集合住宅の理事会はそれを拒否することを禁じる法律を定めた。充電ボックスの費用は個人の負担だが、理事会は配線などを整備しなければならない。

オスロ市はインフラ整備費用の20%と個人の充電ボックス費用の50%を補助する。ポトビックさんは「街中に充電用ポールを立てるのに比べれば安く済む」と話す。ノルウェーで見た変化は、需要が高まると新たな問題解決方法が生まれることを示している。

トラックもフェリーも電動化

オスロから南に広がるオスロ・フィヨルドの交通の要衝、モス。対岸のホルテンとをつなぐフェリーのルートはノルウェーでも最も忙しい海路とされる。フェリー乗り場の岸壁で工事が進む。高さ4メートルほどの黒い箱には「フェリーチャージャー」の文字。このルートで運航する世界最大級全長139メートルの電動フェリー「MFバストエレクトリック」を充電するためのものだ。

フェリーは完全電気駆動に

同フェリーは現在はディーゼルエンジンとのハイブリッドで運航しているが、モスの充電設備が完成すると、ホルテン側で稼働中の充電器と合わせて完全電気駆動に移行する。MFバストエレクトリックの電池容量は4300キロワット時と日産自動車の電気自動車(EV)「リーフ(通常モデル)」107台分だ。

現在は5隻のうち1隻だけで、22年夏に全運航を電気フェリーに切り替える。二酸化炭素(CO2)削減効果はガソリン車1万台分にのぼる。運航会社バスト・フォーセンのオイヴィンド・ルンド最高経営責任者(CEO)は「地域全体のグリーンシフトに貢献する」と意気込む。

フェリー用の充電器の出力は9000キロワット。停泊中に約10分充電すればディーゼルエンジンの使用は不要に(ノルウェー・モス)

船舶向けの充電システムを開発する独シーメンス・エナジーによると、ノルウェーでは2021年末までに70隻の電動フェリーが運航する予定だ。運輸部門のCO2排出では乗用車に注目が集まりがちだが、バスやタクシーを含んでも約半分で、船舶は航空と並んで約1割を占める。

■商用バンの充電拠点整備

残りの3割がトラックなどの商業輸送だ。オスロではこの分野でも実験が進む。オスロ港の一角にコンテナを積んで作った仮設風の建物が白、黄、赤と並ぶ。ドイツ鉄道系のDBシェンカーのコンテナでは三菱ふそうトラック・バスの電気トラック「eキャンター」が充電されていた。

ここは「オスロシティーハブ」。その名の通り市外から荷物を運んでくる大型トラックが荷物を下ろし電動の小型トラックやバン、自転車に載せ替えて市内に運ぶハブだ。

大型トラックで運ばれてきた荷物は、配送用EVに載せかえて市内各地へ(オスロシティーハブ)

オスロでは30年までにすべての商用バンや重量輸送を原則CO2排出ゼロにすることを義務付けている。そのため19年にDBシェンカーが市に協力を要請しその後、黄のドイツポストDHL、赤の地元郵便会社ポステンが加わり大手5社のうち3社が集まる。

ポトビックさんは「オンラインショッピングが増えるなかでCO2削減の目標を達成するには、商業輸送のインフラ整備が重要だ」と話す。

タクシーは非接触で充電

ポトビックさんのチームはタクシーの充電にもメスを入れた。非接触充電だ。英ジャガー・ランドローバーや充電技術スタートアップの米モメンタム・ダイナミクスなどと協力してテストを進める。改造したジャガー「Iペース」25台を使い、市内3カ所に充電ポイントを設けた。

タクシー運転手は道路に埋め込まれた青い充電パッドの上に車を止めれば、ケーブルの抜き差しをすることなく客を待つ間に充電ができる。充電出力は50キロワットを突破し、さらなる高速化を目指す。

ポトビックさんは「非接触充電はゲームチェンジャーになりうる」と期待する。オスロ市や第2都市のベルゲンは24年に新規登録だけでなく営業するすべてのタクシーを温暖化ガスを排出しないゼロエミッションにすることを決めている。インフラ整備の支援と規制の導入という、アメとムチを駆使して、脱炭素を目指す壮大な社会実験から目が離せない。

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