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オンライン医療相談、早く安く 新興がスマホで手軽に:日本経済新聞(10/8)

マイシンのオンライン診療「curon typeC」では手の空いた医師が順番に対応し診察を円滑に進める

体調が良くないが、病院に行くほどかどうか判断しにくい。そんな悩みをスタートアップが解決しようと動く。新型コロナウイルスの感染拡大もあって多くの人が相談を望むなか、素早く対応できる仕組みを割安に提供する。通院や医師・看護師の訪問に代わる方法としても用意する。仕事や個人的な事情などから受診しにくい場合もあり、IT(情報技術)を使って医療を受けるハードルを下げる。

仮想「待合室」で診察待ち

新型コロナの1日当たりの新規感染者数が東京都で1000人を超えていた2021年9月14日、あるスタートアップのオンライン診療サービスに注目が集まった。MICIN(マイシン、東京・千代田)が手掛ける「curon typeC」を、東京都医師会が自宅療養者のフォローアップに採用すると発表したためだ。

マイシンのサービスは、受診希望者がスマートフォンを持っていればすぐに使える。アプリをインストールする必要すらない手軽さを特徴とする。希望者は指定のURLからインターネット上の仮想の「待合室」にアクセスすれば、医師による診察が始まるのを待つだけだ。

大手企業などによる既存のオンライン診療システムでは、問診や健康情報の登録機能などが細かく設けられ、複雑な初期設定が必要とされる。受診希望者にとっては診察に入るまでにかかる時間や、個人情報を聞き出される心理的な負担などが重くのしかかる。マイシンのサービスはそれらを解消してくれる。

感染急拡大に対応しやすく

医師にとっても使い勝手が良い。従来「新型コロナ陽性の自宅療養者を、医師がオンラインで経過観察できる環境をつくる」(東京都医師会の尾崎治夫会長)ことが求められても、感染拡大で急増した自宅療養者に対応できる現実的な仕組みをどう構築するかが課題となっていた。

医師は「curon typeC」の病院側の画面から診察に進む

マイシンのサービスなら医師は、スマホ経由で集まる自宅療養者の診察に専念できる。療養者が増えても円滑に進められ、家庭内などでのクラスター感染にも対応しやすい。既存のシステムが複雑で「(症状が安定した患者の)継続的な診療には向くが、新型コロナのような急性疾患には不向きだった」(マイシンの原聖吾社長)のに対し、操作をシンプルにした。

患者の負担はシステム利用料として数百円、医療機関の導入コストは無料としたこともあり、採用が広がっている。東京都医師会が平日午後6~9時の自宅療養者向けオンライン診療を多摩地域から順次始めたほか、品川区医師会は21年4月からの試行を経て本格導入した。板橋区や広島県の一部での導入も決まった。

既存システムはコロナに不向き

医師がオンラインで患者を診察するサービスは、感染リスクを低減しつつ医療を続けなければならないコロナ下に適しているが、普及は進んでいない。厚生労働省の21年4月時点の調査で電話・オンライン診療を導入する医療機関数は約1万6800件と全体の15%にすぎず、初診対応する医療機関に限ると6.5%にとどまる。

原因の一つはシステムにある。多くは糖尿病や高血圧など、比較的症状の安定した病気の診察を想定したつくりだ。クレジットカード決済や診察前の問診など機能も豊富だが、個人情報の事前登録など患者ごとに手間がかかる。感染が急拡大し症状の急変もある新型コロナには向かない。

また新型コロナで自宅療養や入院を指示するのは地域の保健所で、自宅療養者の健康状態を確認するのも保健所の仕事となる。この点、マイシンのサービスでは自宅療養者へのURL発行の役割で保健所が介在し、医師会のフォローアップにつなぐことでオンライン化を実現した。

既存のシステムは、メドレーの「クリニクス」で約30万円と導入費用もかかる。半面、オンライン診療で得られる報酬は対面診療より2~3割低く、医師からは「経営の面では費用対効果であまり見合わない」(都内の診療所院長)との声も漏れる。

メドレーの新サービスではスマホをワンタップすれば受診できる

メドレーも21年8月、NTTドコモなどと共同でスマホをワンタップすれば診察が始まる新サービスを始めた。当面、患者と医師の双方で利用無料とし、同年9月には埼玉県産婦人科医会が導入した。

埼玉県産婦人科医会は保健所やかかりつけ医などと連携して新型コロナに感染した妊婦の自宅療養を支援する体制を整え、約30の医療機関が新たなオンライン診療のサービスを利用している。平田善康会長は「マニュアルを読む必要がないくらい簡単に操作できることが導入の決め手になった」と説明する。

悩み回答はチャットで

新型コロナウイルスの感染懸念から「受診控え」が広がり、他の病気の重症化リスクも高まる。その解決にもスタートアップが一役買う。

14年創業のアナムネ(東京・中央)は、生理不順など体の悩みを抱える女性向けに医療相談を手掛ける。女性医師と契約し、相談したい女性と医師をマッチングさせる。24時間365日、チャット形式で受け付ける。内科や産婦人科、皮膚科など各専門の計約60人の医師が相談に応じる。

毎月、全体で200件ほどの相談が寄せられる。センシティブな悩みを扱うため、表情の見えないチャットにすることで相談の際の心理的なハードルを下げた。受診が必要となれば医療機関につなぐほか、通院が難しいユーザーには、ビデオ通話によるオンライン診療も提供する。

菅原康之社長はサービスについて「病院に行く前の不安に丁寧に応えられるのが強み」と話す。チャットでは費用を気にせずいつでも相談できるよう、月あたり980円の定額料金制にしている。

介護施設の人材不足もカバー

介護施設向けにオンライン医療相談を手掛けるのはドクターメイト(東京・港)だ。床ずれや皮膚のかゆみなどといった入所者の体の悩みについて、施設スタッフが専門人材に聞けるサービスを提供する。「左膝から足先にかけて強く痛がっています。受診すべきですか?」といった質問が、日々寄せられている。

スタッフが入所者の状態を記した文章と写真をタブレット端末などからアップロードすると、ドクターメイトに所属する医師や看護師が対処方法などを答える。病院に行くべきかどうかをアドバイスし、症状などを記したリポートの作成も代行してくれる。

午前8時半から午後5時までは医師がチャットで対応し、午後5時から翌日朝の午前8時半までの間の急な相談は看護師が電話で受け付ける。18年の開始から237施設に導入され、特に直近の1年間で導入施設は約3倍に増えた。

高齢者が入る施設には介護スタッフのほかに看護師が付く場合があるが、医療人材は慢性的に不足している。夜になれば施設の看護師が帰宅してスタッフだけとなり、入所者に健康上のトラブルがあっても判断が難しくなる。結果的に軽症でも救急車を呼ぶケースが少なくなかった。

費用は介護施設から支払い、施設の業態などにもよるが、定員100人の特別養護老人ホームで24時間相談サービスを契約した場合は月額18万円からとなる。

使い勝手の良さ出せるか

新型コロナもきっかけにサービスの利用が広がるなか、既存のオンライン診療システムにも改めて目が向き始めている。

神戸市に住む佐藤彩花さん(仮名、20歳代女性)は、メドレーのシステムを通じて天下茶屋あみ皮フ科クリニック(大阪市)の山田貴博院長の診察を受ける。もとは神戸の自宅から山田氏のクリニックに通っていたが、家庭の事情で半年前から鳥取県と神戸を行き来する生活になったため、オンライン診療を使うようになった。

既存のオンライン診療システムも改めて認知が進む(大阪市の天下茶屋あみ皮フ科クリニック)

山田氏が「妊娠に備えて皮膚炎の薬を変えましたが、その後の体調はいかがですか」と話しかけると、パソコン画面の向こうから「薬を変えてむしろ体調が良くなりました」と佐藤さん。アトピー性皮膚炎を抱えるがこのほど妊活を始めたため、普段飲む薬を胎児への影響がないとされる別の薬に変えていた。

フォローアップのための診察は、オンラインで約10分で終了した。通院ならこうはいかない。佐藤さんは「コロナ禍でなるべく電車に乗りたくないので、オンライン診療は生活に欠かせなくなった」と話す。

オンラインで健康相談や受診ができるサービスの必要性は高まる一方だ。利用者にも医師にも使い勝手の良い仕組みを作れるかが課題で、スタートアップの機動力がカギを握る。

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