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石油の終焉、早める原油高 産油国の安定策にほころび:日本経済新聞(10/10)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB06EIB0W1A001C2000000/

 

中東などの産油国が思わぬ原油価格高騰に直面している。欧州の天然ガス不足という想定外の事態で代替需要が拡大し、需給調整の難易度が高まった。高すぎる原油は米国のシェールオイルというライバルの復活を招く。価格の支配力を失えば「脱石油」を遅らせる取り組みにも逆風になる。

「特にアジアの一部の市場で、ガスから需要がシフトしている」。サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコのアミン・ナセル最高経営責任者(CEO)は10月上旬、石油需要が従来より日量50万バレル増加しているとの認識を示した。

石油輸出国機構(OPEC)加盟国とロシアなどでつくる「OPECプラス」は世界経済の正常化に合わせて、月に日量40万バレルずつ増産している。この増産量を上回る需要がガスからの代替で突如、発生したわけだ。

液体で使い勝手の良い原油は「本来、天然ガスより用途が広い分、価格は高い」(和光大学の岩間剛一教授)。ところが、現在のガスは原油よりはるかに高く、欧州の指標であるオランダTTFの価格を原油換算すると1バレル160ドル相当と、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物の約2倍だ。相対的に割安な原油を発電燃料に使う動きが欧州やアジアで広がり始めた。

WTI先物の期近物は8日に1バレル80.11ドルまで上昇する場面があり、節目の80ドルを約7年ぶりに上回った。産油国にとっては歳入が増えるため悪い話ではなさそうにみえるが、構成国の一部からは「油価が高すぎる」と警戒感が広がる。念頭にあるのは、ライバルである米国のシェールオイル復活のリスクだ。

これまでOPECプラスは段階的な増産を繰り返し、需給バランスを整えて油価の高騰を抑えることでシェール復活を阻んできた。期近物だけでなく取引期限が長い先物をみると大きな効果があったことがわかる。

段階的な増産は将来の需給が緩和するとの観測を生んだ。8月末時点では期近物は1バレル70ドル弱と米国のシェール油井の平均開発コストの上限(58ドル)を上回っていたが、3年先の先物価格は58ドルを下回る水準だった。期先物が期近物より安くなる「バックワーデーション」という現象だ。

シェール企業は将来の生産量の一部を先物などでヘッジ売りする。あらかじめ売却価格を固定してしまう効果があるが、期先が安いと安売りにつながってしまう。「シェール生産の抑制効果があった」(三菱商事のシニアアドバイザー、ロバート・ヌーナン氏)

足元では様相が異なってきた。WTIの期近物が80ドルまで上昇した影響で、期先の価格も押し上げられ、23年12月物は約65ドルと今年8月末から6ドル近く上昇しバックワーデーションの効果は薄れた。「今後はシェール生産が回復する可能性は高い」(ゴールドマン・サックス証券の真壁寿幸・市場商品営業部長)

米石油サービス大手ベーカー・ヒューズによると、米国のシェールオイルの開発動向を示す掘削設備(リグ)の稼働数は8日時点で433基。新型コロナ禍前の19年末比で4割近く少ないが、20年8月の底(172基)からは回復してきた。

シェール生産が本格化した過去10年では、油価が高騰するとシェール企業の増産で相場が崩れた。中東産油国やロシアが煮え湯を飲まさた悪夢が再びよぎる。

OPECプラスの立場は難しい。シェールという競合が生まれた一方、世界は急速に脱炭素に向かう。シェールをけん制しつつ自国財政を潤し、かつ再生可能エネルギーへの投資が加速しない価格水準にコントロールしなければならない。

この戦略を持続するには強い価格支配力が必要だ。20年5月に協調減産を始めた後、需要回復に応じて生産量を調整して、上昇しても70ドル前後に収束させることができた。ところが、天然ガスの急騰をきっかけに、シェール復活や再生エネへのシフトが懸念される価格の急上昇となってしまった。

サウジアラビアの元石油相で長年にわたり石油戦略を主導し、今年この世を去ったアハマド・ザキ・ヤマニ氏はかつて「石器時代は石がなくなったから終わったのではない。(青銅器や鉄など)石器に代わる新しい技術が生まれたから終わった。石油も同じだ」と語った。

国際エネルギー機関(IEA)によると、再生エネ投資額は20年に初めて石油・ガスの上流事業を上回った。にわかに浮上した世界のエネルギー不足が、石油時代の終焉(しゅうえん)を早める入り口になる可能性もある。

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