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たそがれの結果至上経済 消費は「売る前」に動く:日本経済新聞(10/18)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD132A40T11C21A0000000/

 

ルルレモンの六本木にある店舗

▼売ることより、コミュニティーとしての役割を前面に出すカナダのルルレモンがファストファッションをしのぐ成長力を示す

▼丸井や大丸松坂屋百貨店が「売らない」を掲げた店づくりを進める

▼購入型クラウドファンディング市場が500億円規模に成長

▼若い世代を中心に著名人が主宰するオンラインサロンが活況

戦略の方向性が一致していない企業や消費者の行動にみえるが、実は目的を達成するまでのプロセスを楽しむ経済行為という共通点がある。売らない店というのは、店舗が購入先ではなく、企業や商品の世界観や社会的な使命を伝える場になることを意味する。

例えば、スポーツ衣料品ブランドのルルレモンは、カナダで「ヨガの愛好家が集う場所をつくろう」と創業したのがきっかけ。今でも世界の店内でヨガ教室などを定期的に開催している。服はあくまで”ついで買い”という姿勢だ。クラウドファンディングは、まさに目的が達成するまでの過程を楽しむことで、売りっぱなしが中心だった消費ビジネスの変質ぶりがうかがえる。

過程を楽しむ「プロセスエコノミー」

一体なぜ、このような変化が起きたのか。こうした現象を「プロセスエコノミー」という著書にまとめたシンガポール在住のIT評論家、尾原和啓氏に聞いてみた。「日本に戻ると、コンビニエンスストアの300円スイーツのおいしさに驚く。こうなるとケーキ職人は厳しい。これは家電など様々な分野の完成品市場に共通している。もはや、いいモノだけでは稼げない」と指摘する。

完成品あるいはアウトプット(成果物)で稼ぐ経済に対して、完成に至る道のりで顧客を集めるのがプロセスエコノミーだ。尾原氏によると、プロセスエコノミーという言葉は、ライブ配信企業を立ち上げた「けんすうさん」という人物が作ったという。

ネットで瞬時に情報がコピーされ、共有される時代。ファーストリテイリングの「ユニクロ」のように、安さだけでなく、質も高いコモディティー化があらゆる分野で加速している。このため、すぐに後発の国や企業に追いつかれ、完成品ビジネスの収益力は低下するばかりだ。それは年々進化する100円ショップを見れば分かる。かつては既存品の廉価版を提供するイメージだったが、今では新たな実用品を数多く生み出している。

しかも、完成品の市場は飽和状態にある。「コモディティー化で機能の違いが少なくなると、若い世代を中心に商品を選ぶ楽しみがなくなってくる。消費に意味を求める志向が強まり、(商品が店頭に並ぶ前の)上流に目が向いている」(電通若者研究部の用丸雅也氏)。結果至上主義が強かった日本経済だが、付加価値がプロセスで発生する「新消費主義」は着実に社会に浸透していくだろう。実際に、そんな現象はたくさん生まれている。

クラウドファンディング、マニアを魅了

プロセスエコノミーの定義は幅広い。狭義で言えば、プロセスそのものに支出するクラウドファンディングが代表だろう。READYFOR(東京・千代田)の支援事例を見ると、消費者がお金を払いたい行動の多様さを感じる。例えば、同社で初めて1000万円以上集めたのは、日本初の四輪駆動車「くろがね四起」の復元という実用性がまるでないプロジェクトだった。

1万円を出資した場合、一般展示前のお披露目イベントへの招待と、車両の隣に置くプレートへの名入れ、そしてオリジナルTシャツのプレゼントだ。3万円だと、これに助手席での記念撮影が加わる。興味のない人には、少ない見返りの割に法外な出費に見えるだろうが、マニアにとっては十分すぎる内容だ。最近話題の「すみだ北斎美術館」(東京・墨田)の建設費用も、トラストバンクが運営する「ふるさとチョイス」がクラウドファンディングで資金の一部を集めている。

くろがね四起は、READYFORを通じ修復資金を集めて復活した(静岡県御殿場市)

消費は「これでいい」と「これがいい」に

振り返ると、コモディティー化は今に始まったわけではなく、広義のプロセスエコノミーは消費に根付いている。人気の女性ユニット「NiziU(ニジュー)」を生んだオーディション番組は、視聴者が誕生までの姿に感動し、ファンになっていく。

名車モデルや往年の人気ドラマなどを分割して販売し、時間をかけて完成していくデアゴスティーニのようなコンテンツビジネスもプロセス重視型だ。サステナブル型の衣料やシューズブランドも商品の価値以上に、環境を重視したものづくりに消費者は共感し、出費を惜しまない。

劇作家で評論家の故山崎正和氏は著書「柔らかい個人主義の誕生」で、消費が生産物を処理するためではなく、自己実現する行為と位置づけていた。1980年代に看破した見通しが、ようやく到来したように映る。今後の消費は「これがいい」というこだわり型と、「これでいい」という量販型を使い分ける姿がより顕著になる。

「これでいい」分野は一段と競争が激化し、コモディティー商品を扱うスーパーやドラッグストアは業界再編に拍車がかかる。「これがいい」モデルは「答え」より、なぜやるのかといった「問いかけ」が起点になる。学校では優先順位が低かった倫理、哲学が価値になるわけで、一夜漬けでは追いつけない。結果より過程が収益を生む新消費主義が根付くには、教育プロセスの見直しも必要だろう。

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