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あなたの会社で何度上昇? 脱炭素へ迫る投資マネー:日本経済新聞(5/27)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODB31EAF0R30C21A3000000/

グリーンランドをおおっている氷は温暖化でとけ、海面上昇を加速させる。企業の脱炭素は待ったなしだ=ゲッティ共同

地球の平均気温の上昇を産業革命前に比べて1・5度に抑えるため、主要国は今世紀半ばまでに温暖化ガス排出量を実質ゼロにする目標を掲げる。こうした脱炭素の流れから、投資家が企業への圧力を強めている。排出量の削減目標を設定し、消極的な企業は投資対象から外すといった動きが出ている。排出量が新たな評価基準となり、企業の対応は待ったなしだ。

「あなたの会社は2050年に、気温を何度上昇させるでしょう」。独ESG(環境・社会・企業統治)評価会社のアラベスクS-Rayは二酸化炭素(CO2)など温暖化ガス排出量から、その企業の温度を1.5度、2度、2.7度、2.7度超、3度の5段階で評価、格付けしている。温度が低いほど温暖化ガスの排出量が少ない。開示している排出量のデータが不十分で、アラベスク社の基準を満たしていない企業は一律で「3度」と評価される。

評価方法(詳細は文末を参照)はこうだ。アラベスク社はまず対象企業の直近の温暖化ガス排出量を、年間収益(税引き前利益+減価償却費+人件費)で割った数字を算出する。同様にその企業の業界全体の排出量を、その産業の付加価値(GDP)で割った数値も計算する。

業界全体の数値はさらに、50年に世界の気温上昇を1.5度、2度、2.7度に抑える場合の数値を、業界の温暖化ガスの排出見通しと付加価値の予測をもとにそれぞれ推計している。この50年時点の予測数値と、対象企業の現在の数値を比べて何度に当てはまるかを調べたものだ。

つまり各企業が現在の数値のまま削減努力をしないと仮定した場合、何度の温度上昇になるか業界ごとに当てはめたものと言える。もちろん、今回の数値はあくまで各企業の現在の数値で格付けしているため、今後削減努力を強化すれば温度は下がる。

対象となる日本企業は3月28日時点で318社。排出量の少ない「1.5度」と評価されたのは74社だった。ソニーグループパナソニックリコーなどがここに該当する。一方、排出量の多い「2.7度超」は44社あり、JパワーENEOSホールディングスといったエネルギー系企業や商社、素材関連が目立った。

「2.7度超企業」の受け止めは様々だ。三井物産は「評価は真摯に受け止める。当社では子会社に加え、共同支配事業(ジョイントオペレーション)まで排出対象に加えているため、他社より数値が悪化する傾向がある」と指摘。「格付けされていることは認識している。低・脱炭素化に向けて取り組んでいく」(三菱商事)、「40年度には自社のCO2排出分についてカーボンニュートラルを目指す」(ENEOS)との声も聞かれた。

一方、Jパワーは「アラベスク社がどのような情報からどう評価したのか不明で、評価自体に対してはコメントできない」とする。開示データが不十分で3度の企業も112社あった。

こうした評価手法が出てきたのは、機関投資家がESGの観点から投資先企業に対し、排出削減を迫り始めたからだ。

米ブラックロックや米バンガードなど世界的な運用会社が名を連ねるのが「ネットゼロ・アセットマネジャーズ・イニシアチブ」。世界の気温上昇を1.5度に抑えるには50年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロにする必要がある。この投資家連合は、資産運用会社が投資先の排出量を50年までに実質ゼロにすることを目指す。

20年12月に30社で設立し、今年4月には参加運用会社は87社に達した。総運用資産も当初の9兆ドルから37兆ドルと、世界の投資マネーの実に約4割にのぼる。イニシアチブの参加運用会社は、30年までの排出削減目標や対象となる運用資産の金額を、11月の第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)までに設定する。

年金基金や保険会社など、運用会社に資金を預けている「アセットオーナー」はさらに一歩先をいく。50年までに投資先の排出量を実質ゼロにする目標に加え、5~10年先の具体的な排出削減目標も設定。対話(エンゲージメント)や議決権行使、投資撤退(ダイベストメント)を通じて投資先企業に圧力をかける。

第一生命保険は25年までに、投資先からの排出量を19年度末比で25%削減する方針だ。CO2排出が多い企業も含めて23年度までに6000億円の株式を売却するという。日本生命保険や住友生命保険も50年までの排出量実質ゼロ化を目指すと表明した。

スウェーデンの公的年金AP4は40年までの実質ゼロ化を掲げ、30年までに株式運用資産からの排出量を20年比で半減する計画。20年には、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」と整合的でないエネルギー企業の株式を売却した。独保険大手アリアンツも株式と社債の投資先からの排出量を25年までに19年比25%減らす。

さらに4月には米バンク・オブ・アメリカや英HSBCなど43の銀行が50年までに融資先の排出量実質ゼロを目指すと表明した。運用会社やアセットオーナーなどを含めて資産合計が70兆ドルにのぼる160以上の金融機関が50年ゼロに向け、企業に変革を求める構図ができ上がった。

複数の投資家が一緒になって企業に排出削減を迫る動きも強まっている。排出量の多い世界の167社に対して対話を求める機関投資家団体「クライメート・アクション100プラス(CA100+)」は3月、「ネットゼロ・カンパニー・ベンチマーク」を公表した。対象企業の脱炭素社会への対応がどの程度進んでいるかを判断するものだ。

50年実質ゼロ目標があるか、短期、中期、長期の排出削減目標があるか、脱炭素戦略があるか、主要国の金融当局が設立した「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に沿う開示をしているか、など10項目で159社を評価した。このうち、50年の排出実質ゼロ目標を掲げているのは全体の25%にあたる39社だった。

10項目全体を見ると、仏電力大手EDFや日立製作所などは相対的に取り組みが進んでいる。EDFは50年実質ゼロ目標に加え、中期の削減目標なども設定。気候変動問題のガバナンス(統治)体制も整う。日立は50年実質ゼロだけでなく、短期、中期、長期の削減目標を掲げている点が評価につながった。

日立製作所大みか事業所(茨城県日立市)に設置されている太陽光パネル=同社提供

CA100+の運営委員を務める三井住友トラスト・アセットマネジメントの川添誠司氏は「同業種で比較するなどして、取り組みが不十分な点について今後、各企業との対話で改善を求めていく」と話す。

投資家は自ら削減目標を決め、指標を出し、さらなる対応を企業に求める。企業の排出量が1.5度に整合的でなければ、投資対象から外されるリスクも高まっている。企業は要求を満たすため、さらなる排出削減努力が求められる。

(ESGエディター 松本裕子)

アラベスクS-Rayの評価方法

独ESG評価会社のアラベスクS-Rayは、温暖化ガス排出量から評価対象企業の温度を1.5度、2度、2.7度、2.7度超、3度の5段階で評価している。まず、対象企業の直近の排出量を年間収益(税引き前利益+減価償却費+人件費)で割った数値を算出する。これを対象企業の「炭素強度」と名付けている。さらにその企業が属する産業全体の排出量を、その産業の付加価値(GDP)で割った数値も計算する。これを「参照値」と名付けている。

参照値の方は、その産業が世界の温度上昇を1.5度、2度、2.7度に抑える場合の、50年までの排出量見通しを推計している。グラフの青や緑の線がそれにあたる。
一方、対象企業の炭素強度は現在の数値のみ算出。現在から50年まで変わらないと仮定して参照値と比較し、50年時点で何度に当たるかを示す。例えばある企業の炭素強度が、50年時点の2度の参照値より高く2.7度より低ければ、その企業の50年の温度は「2.7度」としている。

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