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脱炭素でガス火力発電も窮地に 「融資OK」でも暗雲:日本経済新聞(11/4)

長期的な天然ガスの利用は、一筋縄ではいかなさそうだ(写真は東京ガスのLNG船)
日経ビジネス電子版

石炭に代わって火力発電の主役を射止めそうだった天然ガスが、ファイナンスをめぐって受難の時を迎えつつある。アジア開発銀行(ADB)が20日に正式決定したエネルギーへの融資方針は、天然ガスにも厳しい条件を並べた。ADBは日本のメガバンクや政府系金融機関も協調融資で頼っており、その方針は重電・電機メーカーの海外案件も左右する。新たな発電所を2050年以降も稼働させるには、1カ所で約200億円の追加コストになるとの見方もある。

「これでは厳しすぎて、アジアのエネルギー供給が立ち行かなくなる」。日本の経済産業省幹部はADBが決定する前の原案段階で、天然ガス火力への方針にうなっていた。世界には「もっと再生可能エネルギーに置き換えればいい」との意見もあるが、むしろ再エネを増やすためにもガス火力は必要だ。

例えば直近のスペインでは1年前より風況が2割ほど弱く、風力発電の減少分をガス火力で補うことになった。液化天然ガス(LNG)の国際スポット価格は10月上旬までの1カ月だけで9割上昇したが、環境先進地域の欧州でさえ、緊急時に頼る燃料なのだと示した。

とくにアジアでは、段階的に化石燃料から再エネへ移る「トランジション(移行)」戦略が求められる。水面下で日本政府はADBに対し、現実的に各国が取り得るエネルギー政策を支えるよう要望した。

そして融資方針の最終版には、いくつか日本側の意向も反映された。例えば以下のような文章が盛り込まれた。「天然ガスは複数の条件下で、石炭火力や石油火力のようなより環境汚染をもたらす燃料に対し、より低炭素の代替手段となり得る。そして柔軟に使いやすい資源なので、より多くの再エネによる電力を系統接続するのに有効だ」

この文言には、再エネを拡大する過程で欠かせないエッセンスが詰まっている。全面的に天然ガスまで否定する方向は避けられた。上流であるガス田の開発にはADBが関与しないものの、中流~下流からの撤退は免れた。

5つの融資条件

その代わり、天然ガス火力への融資条件は主に以下の5つが設定された。

(1)高効率かつ、国際的に調達可能で最適な技術を採用すること

(2)その他の化石燃料の代替となり、温暖化ガス排出を削減すること

(3)同等またはそれ以下のコストで提供可能なゼロカーボンまたは低カーボンの手段がないこと

(4)おおむね2050年までのカーボンニュートラル目標と整合的であり、化石燃料の「ロックイン(囲い込み)」や「座礁資産」となるのを避けること

(5)総合的に考えて、そのプロジェクトが経済的に実行可能であること

三菱重工業はセーフ

ここで融資条件となっている、高効率で最適な技術とは何だろうか。現時点で具体的な発電効率について定義があるのか、ADBに問い合わせてみた。

エナジーセクター・グループのチーフ、プリヤンタ・ウィジャヤトゥンガ氏から以下の回答をもらった。「最適な技術というのはデューデリジェンス(計画内容の精査)での要検討事項だが、どの対象国でいかなる技術を展開できるかにもよる。もちろん、高い発電効率の技術ならその他の設備よりアドバンテージがあるだろう」

つまり、厳密に「何%でないとダメ」といった線引きではないようだ。例えば三菱重工業に聞いてみると「当社のガスタービン・コンバインドサイクル(GTCC)なら発電効率は64%超を達成しており、現時点で世界最高水準」という。GTCCはガスタービンでの発電だけでなく、その排熱も使って蒸気タービンでも発電する方式だ。この性能なら問題ないかどうかもADBに質問したところ、否定はされなかった。

高効率なガスタービンは融資対象となりそうだ(イメージは三菱重工業のタービン)

CCUSは必須か

ただ、課題となるのは「2050年までのカーボンニュートラルとの整合性」だ。天然ガスの火力発電所は、耐用年数がおおむね15~25年間という。例えば今から建設を計画し、2025年から運転を始めたら2050年ごろには運転停止となるので構わない。しかし、新規計画が今後数年で出尽くす訳ではない。2030年に運転し始めたら、耐用年数とは関係なく20年後に止めるリスクがある。

新興国の中で先進的な中国でも炭素中立の目標時期は2060年。このほど新計画を公表したサウジアラビアも同じだ。10年前倒しが必要で、東南アジアではさらにハードルが高い。石炭火力に比べ、ガス火力のライフサイクル二酸化炭素(CO2)排出量は約2分の1。ベースロードの位置付けの石炭をミドル電源のガスで補うという課題はあるものの、より環境負荷の少ない手段として各国が注視している。

ガス火力発電所をいつ稼働させ始めても、2050年での廃棄が条件になるのだろうか。この点もADBのウィジャヤトゥンガ氏に聞いたところ、「CCUS(CO2を回収して利用・貯留する技術)を備えた天然ガス発電なら、(他の条件も満たす前提で)2050年以降も稼働できる」との回答だった。

資金回収、プラス18年?

またもや、資金繰りが課題になるようだ。いったいCCUS(または貯留までのCCSという設備)付きのガス火力だと、どれくらいコスト増となって資金回収に影響を及ぼすのか。国内金融機関でプロジェクトファイナンスを手がける担当者に、試算を依頼してみた。

現実のケースも参考に、アジアで発電容量700メガワット規模のガス火力発電所を建てると想定してもらった。建設に約700億円かかるとし、CO2を貯留するCCSの設備も導入すると、追加で約200億円必要という。

このモデルでは融資の承諾時から25年で、対象国での売電契約が終了する。この25年目でのキャッシュフローは年間5000万ドル。先ほどの設備投資は即座に発生するのに対し、将来の収入は現在価値に換算する必要がある。内部収益率(IRR)10%で割り引いた正味現在価値(NPV)は約1100万ドルとなる。単純計算でCCSの追加により資金回収期間は18年延びる。

ただ、もし売電期間を18年延ばすと、融資承諾時から43年たつ。運転開始から数えても40年目となり、耐用年数を大きく超えてしまう。とはいえ売電単価を引き上げるのは困難だ。それなら売電以外の方法でもキャッシュを得られたら、耐用年数内に回収できるのではないか。といってもCCSで付加価値を生むのは難しい。CO2を活用するCCUSにするとしても、炭酸飲料の工場や農業ハウスへの輸送手段、売価設定などをうまくコントロールしないとならない。

このため「CCSに対する現地政府の補助金、もしくはCO2-EORでの収入などがないと、2050年をまたがるプロジェクトは推進しづらいのではないか」(国内金融機関の担当者)。EORというのは「Enhanced Oil Recovery(石油増進回収法)」の略で、この場合だと地下の油層にCO2を圧入し、原油を取り出しやすくする。ただ、これもコスト回収にどれほど寄与するかはケース・バイ・ケースだ。

これから日本の重電や電機メーカー、電力会社などがADBの融資も使ってガス火力を手がけるときは慎重にならざるを得ない。日本政府に協力を求め、CO2の処分・活用について現地政府と公的資金をどこまで使えるか協議しておく必要がある。

世界の南北問題、再び

やはりアジアに対し、化石燃料を使うことへの風当たりは強い。ADBは日本政府が大株主とはいえ、欧州を中心としたアジア域外国の議決権比率も約35%を占める。今回のエネルギー政策では天然ガスについて「採掘や流通の過程で漏れ出す気体は、国際的なメタンガス排出で相当なシェアを占めているかもしれない」という文章も盛り込まれた。前述のように日本側が天然ガスの意義を押し込んだだけでなく、各国の主義主張とのせめぎ合いがある。

問題は、経済発展の南北問題に目をつむってきたことだ。国際エネルギー機関(IEA)によると、1人あたり電力消費は新型コロナウイルス禍が起きる前の2019年時点でフランスが7.0メガワット時(MWh)、ドイツが6.6MWh、日本は7.9MWhだった。一方、タイは2.9MWh、インドネシアは1.0MWh、フィリピンは0.9MWhしかなかった。主な東南アジア諸国と欧州・先進国との1人あたり電力格差はざっくり2~9倍あると言える。

そして電源構成(19年時点)をみると、タイ、インドネシア、フィリピンはいずれも80%近くが化石燃料由来だ。マレーシアも83%、ベトナムも69%を占める。そもそも先進国より電気を使っていない状況で、現在の電源を使わないように、と迫るのは先進国の横暴になりかねない。もちろん地球温暖化は危機的だが、新興国も乗り気になるプランを提示しないと国際的な目標は画餅に帰す。

東南アジアの沿岸は欧州に比べて安定した風を得にくく、メガソーラーも適地から人の居住地まで電力を届けるには送電網の整備が必要だ。そして風も太陽光も変動するが、大規模に電力を調整できるほどの蓄電技術はまだない。エネルギー密度の高い蓄電池や複数電源の同時制御システムを開発しながら、当面はガス火力での調整にも頼らざるを得ない。具体的なトランジション戦略を提示しないと、アジアは袋小路に陥る。

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