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電力、「延命」頼みの原発 経年劣化で安全性なお懸念:日経産業新聞(11/15)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC28CJK0Y1A021C2000000/

 

脱炭素の潮流が追い風となり、原子力発電を活用する動きが出ている。フランスは原発新設を再開すると表明し、英ロールス・ロイスが小型モジュール炉(SMR)の開発に着手した。日本は運転期限の原則を緩和し、既存原発の「延命」を模索する。だが大事故を経験した国民の原発への不信感は根強く、大手電力などが望む「原発回帰」へ進むかは不透明だ。

33基中わずか10基の稼働

2日、英グラスゴーで開かれた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の首脳級会合。岸田文雄首相は国際社会に向けてこう宣言した。「日本はアジアを中心にクリーンエネルギーへの移行を推進し、脱炭素社会を創り上げる」

太陽光や風力など再生可能エネルギーだけを指す「グリーン」ではなく、原発を含めた「クリーン」という表現を用いたのは、原発の活用を意味している。

10月に政府が閣議決定した「第6次エネルギー基本計画」では、2030年度の電源構成で、原発は20~22%の比率に据え置いたものの、19年度の発電量はわずか6%。11年の東京電力福島第1原発事故後に再稼働したのは全33基中10基にとどまる。残り9年の期間があるとは言え、30年度の電源構成を満たすには、大手電力が原子力規制委員会に再稼働申請している全27基の運転が必要になる。

原発事故前は全国で54基の原発が稼働し、総発電量の約3割を賄った。原発事故で全国各地の原発が順次運転停止し、12年5月に稼働ゼロとなった。原発事故後に策定された再稼働の前提となる新規制基準を満たすには、防潮堤などを整備しなければならず、追加の安全対策費は1基当たり数千億円規模に膨らんだ。

費用に見合った十分な採算を見込めないことなどから、15年時点で稼働から40年超の関西電力美浜原発1、2号機(福井県美浜町)、四国電力伊方原発1、2号機(愛媛県伊方町)など続々と廃炉が決まった。21年11月現在、廃炉となった原発は合計で24基に上る。

再稼働に収益改善効果

それでも大手電力は出力100万キロワット級の大型原発の再稼働に執念を燃やす。1基当たりで年間数百億円以上の収益改善の効果が見込めるからだ。原発が運転できれば、燃料費がかさむ液化天然ガス(LNG)火力発電などの燃料費を節約することができる。

大手電力の中でも原発依存度が高い関電は、高浜原発1、2号機(福井県高浜町)、美浜原発3号機の再稼働により、1基当たり月額25億円の利益増になると見積もる。

ただ経済的なメリットもしぼみつつある。東電は7月に公表した経営再建計画で、柏崎刈羽原発(新潟県柏崎市、刈羽村)の収益改善効果を1基当たり年1000億円から500億円に引き下げた。運転停止期間の長期化により、設備修繕費や安全対策費がかさんだことが響いた。

稼働上限の撤廃も浮上

大手電力が再稼働による収益改善に期待をかけることとは裏腹に、頭を悩ます問題がある。稼働開始からの運転期間を定めた「40年ルール」だ。原発事故後、政府は原子炉等規制法を改正し、原発の運転期間を原則40年に制限した。あくまで例外だが、規制委の認可を受ければ、1回に限り最大20年間延長できる仕組みにした。

全33基中、30年を超すのは15基、40年超えは4基に上る。「40年ルール」の形骸化につながると警戒されながらも、稼働開始から44年経過した美浜原発3号機は6月に再稼働し、40年超原発では初めて運転延長した。

仮に全ての原発を60年間運転させても、50年には23基、60年には8基まで減る。そこで政府が模索するのは「40年ルール」の緩和だ。最長80年に延ばした米国の事例などを参考に、この上限を撤廃したり、複数回の延長を可能にしたりする案が浮上している。さらに原発事故後の長期停止期間を、運転期間から除くという「奇策」をろうして運転延長を模索する動きもある。

大手電力で構成する電気事業連合会の池辺和弘会長(九州電力社長)は7月の会見で、「技術的に大丈夫であれば期間は延ばした方がいい」と秋波を送る。日本原子力産業協会の新井史朗理事長も「既存炉を徹底活用する上で、長期運転は非常に価値がある。法律で一律に定めるのでなく、プラントごとに経年劣化の程度から判断すべきだ」と述べ、ルール緩和を歓迎する。

くすぶる経年劣化の懸念

だが安全性に対する懸念はくすぶる。配管や中央制御盤などの機器は取り換えられるが、「心臓部」にあたる原子炉圧力容器と、これを覆う格納容器は交換できない。特に圧力容器は核分裂で生じる強い放射線の中性子線にさらされ、金属材料が劣化する恐れがある。容器そのものは検査できず、容器内に入れた試験片を調べるしかない。

東京大の井野博満名誉教授(金属材料学)は「初期の原発は圧力容器の材料が均質でないことがある。試験片の検査だけでは状態が正確に把握できない」と指摘。セ氏300度前後の高温になる原子炉に注水する際に「急激な温度差で割れる可能性がある」と警鐘を鳴らす。

「SMR」で新増設を見据え、日揮やIHIが触手
 
 原子力発電所の新増設を見据えた動きも出ている。注目されるのは、次世代原発と呼ばれる小型モジュール炉(SMR)の存在だ。従来の軽水炉型より出力が小さく、建設コストがかからないのが特徴だ。脱炭素社会の到来で世界各国で原発新設が進む。ただ国内では発電コストの優位性が崩れ、大手電力の不祥事も相次ぐ。
SMRは従来の出力100万キロワット超の軽水炉型原発と異なり、数万~30万キロワットと規模が小さい。ポンプやモーターなど複雑な工程を経ずに原子炉を冷却できるため、安全性が高いとされる。工場で部品を組み立ててから建設地に運搬するため、工期短縮や建設コスト削減にもつながる。
先行する米スタートアップのニュースケール・パワーは、2029年にもSMRの運転を始める計画だ。ニュースケール社には日揮ホールディングス(HD)やIHIが出資しており、IHIは原子炉格納容器の供給も見込む。日立製作所と米ゼネラル・エレクトリック(GE)の原子力合弁会社、日立GEニュークリア・エナジーも開発に取り組む。
英ロールス・ロイスもSMRの開発に着手した。1億9500万ポンド(約300億円)を充て、英国の原子力規制に適合させる。初号機の発電容量は47万キロワットを想定する。30年代初頭の完成を目指す。
エネルギー基本計画では、原発の新増設や建て替え(リプレース)に言及しなかった。だが政権与党の自民党は、先の衆議院選挙の公約集に「SMRの地下立地」など、クリーンエネルギーへの投資を積極的に後押しすると明記して、将来の建設に含みを残した。
大手電力もSMRの導入に前向きだ。関西電力は2月に公表した将来ビジョンで、50年に向けてSMRの導入を目指す方針を明確にした。関電の榊原定征会長は「一定の原発を残すには、新増設や置き換え、SMRなどの開発を国策として進める必要がある」と強調する。
欧州でもSMRによる新増設の動きが活発だ。フランスのマクロン大統領は10月、10億ユーロ(約1300億円)を投資し、SMRの導入を進める方針を示した。
 
揺らぐ低コストの優位性
 
原発の優位性は発電コストの安さにあった。しかしそれも揺らいでいる。経済産業省が8月に示した30年時点の発電コスト(1キロワット時当たり)試算では、原発は11.7円以上となり、前回15年の試算より1.4円上昇した。事業用太陽光の8.2~11.8円より高くなり、これまで最安とされたコストも再生可能エネルギーに抜かれた。
原発の発電コストが上昇したのは、再稼働に向けた安全対策費や事故時の賠償費などが増加したことが主因だ。東京電力福島第1原発事故後に作られた新規制基準は、地震や津波対策の大幅な強化を求めており、基準を満たすための追加工事費は膨らみ続けている。
関電が6月に再稼働した美浜原発3号機(福井県美浜町)では、安全対策費やテロ対策施設設置費用に約2700億円かかった。当初は約1290億円と見積もっていたが、耐震補強工事費などが増加した。
東電柏崎刈羽原発(新潟県柏崎市、刈羽村)でも、航空機衝突などに備えた特定重大事故等対処施設(テロ対策)の費用などがかさみ、従来計画の約6800億円から約1兆1690億円へと大幅に膨らんだ。
バックエンドと呼ばれる核廃棄物の処理を巡る費用も重くのしかかる。使用済み核燃料を再処理する日本原燃の再処理工場(青森県六ケ所村)の完成時期は、25回も延期をされており、総事業費は14兆4400億円となった。
これに福島第1原発の廃炉や事故処理費用が増加すれば、さらに発電コストが上振れする可能性も否めない。
 
「お粗末」な失態
 
安全対策に力を注ぐ大手電力だが、足元では「非常にお粗末」(原子力規制委員会の更田豊志委員長)な失態も続く。
柏崎刈羽原発では21年に入って、他人のIDカードを使って中央制御室に不正入室したり、侵入検知装置の故障を放置したりするなど、テロ対策の不備が相次いで発覚。さらに安全対策工事に不備が80カ所以上見つかるなど、重大事故後の変革に疑問符がついた。
日本原子力発電では20年2月、敦賀原発2号機(福井県敦賀市)の再稼働に向けた審査資料を書き換えていたことが判明。原子炉建屋直下に活断層がある可能性が指摘される中、敷地内で実施したボーリング調査の結果を無断で修正していた。
中国電力でも21年6月、テロ対策施設に関する機密文書を誤廃棄していたことが明らかになった。大手電力の不祥事は枚挙にいとまがなく、「原発回帰」にはほど遠い現状だ。
 
海外、原発建設活発に
 
ただ海外に目を転じれば、原発を活用する動きは活発だ。脱炭素社会の実現に貢献度が高いためだ。
国際原子力機関(IAEA)は9月、世界の原発発電容量が高位で推移した場合、20年の3億9300万キロワットから倍増し、50年には7億9000万キロワットに達するとの見通しを発表した。世界各国が化石燃料からの脱却に動く中、原発の重要性が再認識されているとして、前年予測から上方修正した。
日本原子力産業協会によると、21年1月時点で世界では計59基が建設中だ。最多は中国の16基で、インドが7基、韓国とアラブ首長国連邦が4基に上る。化石燃料の奪い合いなどによるエネルギー価格が高騰しているのも、原発に傾く理由だ。再エネ先進国の欧州連合(EU)でも原発への期待も高まりつつあり、ポーランドやチェコなど東欧諸国を中心に建設計画が進む。
国策民営の原発だが、政府も大手電力も正面切っての議論を避けている。大手電力幹部は「脱炭素社会の実現には原発が不可欠だ。岸田文雄政権には新増設も含めた議論を進めてもらいたい」と注文をつける。
ただ福島原発事故で大きな犠牲を強いられた国民の原発への不信感は払拭されていない。福島原発の廃炉など事故処理が滞っている状況での「原発回帰」には根強い抵抗があるのも現実だ。(清水涼平)
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